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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)323号 決定 1985年3月28日

抗告人(債権者)

東信用組合

右代表者

大谷内久四郎

右代理人

大政満

石川幸佑

大政徹太郎

相手方(債務者)

三瑛協商株式会社

右代表者

根本雄太郎

第三債務者

株式会社第一勧業銀行

右代表者

羽倉信也

主文

1  原決定を取り消す。

2  抗告人(債権者)において金三〇万円の保証を立てることを条件として、抗告人(債権者)が相手方(債務者)に対して有する別紙請求債権目録記載の請求債権の執行を保全するため、相手方(債務者)が第三債務者(虎ノ門支店扱い)に対して有する別紙差押債権目録記載の差押債権を仮に差し押さえる。

3  第三債務者は、相手方(債務者)に対し、右差押えにかかる債務を支払つてはならない。

4  相手方(債務者)は、前記請求債権の債権額を供託するときは、この決定の執行の停止又はその執行処分の取消を求めることができる。

5  本件保全命令の手続費用は、相手方の負担とする。

理由

一抗告の趣旨及び理由

抗告人は、「原決定を取り消す。抗告人が相手方に対して有する別紙請求債権目録記載の請求債権(以下「本件請求債権」という。)の執行を保全するため、相手方が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の差押債権(以下「本件差押債権」という。)を仮に差し押える。第三債務者は、相手方に対し、右差押えにかかる債務を支払つてはならない。」との裁判を求め、その理由とするところは、「原決定は、抗告人は別紙請求債権目録記載の約束手形(以下「本件手形」という。)に基づき振出人たる相手方に対して本件請求債権を有するほか、本件手形の裏書人たる申請外ゴールドファッション株式会社(以下「申請外会社」という。)に対しても遡及権を有しており、申請外会社に対する右遡及権を担保するに十分な根抵当権を有しているのであるから、抗告人は本件仮差押命令の申請をする権利保護の資格ないし必要性を欠くとして、抗告人のした本件仮差押申請を却下したものであるが、手形の所持人が振出人に対して権利を行使するか裏書人に対して権利を行使するかは、手形の所持人が債権回収の確実性、容易性、費用等を考慮して適宜選択しうるところであり、所持人が数人の手形上の債務者の中から特定の者に対して権利を行使することとして、その者に対する執行を保全するべく仮差押命令の申請をした場合において、その保全の必要性は原則としてその者に対する関係においてのみ判断すべきものであるのに、抗告人が裏書人たる申請外会社に対して十分な物上担保を有するとの理由で本件仮差押命令の申請を却下した原決定には法令の解釈、適用を誤つた違法がある。」というのである。

二当裁判所の判断

1  抗告人は、信用組合取引契約に基づいて申請外会社から相手方振出にかかる本件手形を割引取得し、その支払期日に支払場所において支払のためにこれを呈示したところ、相手方は、「契約不履行」を理由としてその支払を拒絶し、第三債務者に対して本件手形の不渡処分を免れるための異議申立預託金を預託したが、相手方は本件手形を金融機関として割引取得した抗告人に対して右のような理由をもつて本件手形の手形金の支払を免れうべき理由はなく、また、相手方は水産物等の販売を目的とする零細業者であつて他にみるべき財産もないとして、本件請求債権の執行を保全するため本件債権仮差押申請に及んだものであり、本件疎明資料によれば、一応右の事実を認めることができる。

2  ところで、抗告人が本件手形について裏書人たる申請外会社に対して手形上の権利及び信用組合取引契約上の債権を有することは明らかであり、本件疎明資料によれば、抗告人は、昭和五八年九月、申請外会社の代表取締役池谷章男及びその妻の池谷仁子との間において、抗告人の申請外会社に対する信用組合取引に基づく債権及び手形・小切手債権を担保するため、同人らの所有する土地及び建物について根抵当権設定契約を締結しており、右土地及び建物には他の債権者のために先順位抵当権が付されていることを考慮しても、抗告人は、申請外会社に対する本件手形についての手形上の権利又は信用組合取引契約上の債権については十分な担保を有していることを認めることができる。

しかしながら、約束手形の振出人の手形上の債務と裏書人の手形上の債務とは、主たる債務者の債務と保証人又は連帯保証人の債務との関係とは異なり、主たる債務とそれを担保するための債務という主従の関係があるものではないのであるから、所持人が振出人に対して権利を行使することとして、その者に対する執行を保全するべく仮差押命令の申請をした場合において、振出人に対して権利を行使することが権利の濫用に当たるような特段の事情がある場合はともかく、所持人が裏書人に対しても手形上の権利を有し又は裏書人に対する権利を保全するに十分な担保を有するからといつて、振出人に対する権利の行使が妨げられるべき理由はないし、それだけで振出人に対する執行保全の必要性に欠けるとか権利保護の資格ないし必要性に欠けるものということはできない。

そして、本件においても、抗告人が相手方に対して本件手形の手形上の権利を行使することが権利の濫用に当たるものと認むべきような特段の事情を見い出すことはできない。

三結論

そうすると、抗告人のした本件仮差押命令の申請は理由があるものというべきであつて、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消して、右申請を認容することとし、本件保全命令の手続費用は相手方の負担とすることとして、主文のとおり決定する。

(西山俊彦 越山安久 村上敬一)

請求債権目録

一 金二、二五〇、〇〇〇円

ただし、右約束手形の手形金債権

金額二、二五〇、〇〇〇円

満期 昭和五九年三月三一日

支払地 東京都港区

支払場所 株式会社第一勧業銀行虎ノ門支店

振出日 昭和五八年一二月三日

振出地 東京都港区

振出人 三瑛協商株式会社

受取人・裏書人 ゴールドファッション株式会社

被裏書人 東信用組合

差押債権目録

一 金二、二五〇、〇〇〇円

ただし、三瑛協商株式会社が請求債権目録記載の約束手形の不渡処分を免れるため、株式会社第一勧業銀行の加盟する東京銀行協会に異議申立提供金として提供させる目的で株式会社第一勧業銀行(虎ノ門支店扱い)に預託した異議申立預託金の返還請求権

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